[みゅう]パリ 美術コラム 街自体が美術館 ! パリのストリートアート BY ART AND TOWN @ BUTTE AUX CAILLES みゅうパリ ブログ記事ページ

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    [みゅう]パリ 美術コラム 街自体が美術館 ! パリのストリートアート BY ART AND TOWN @ BUTTE AUX CAILLES


    2016-06-20

  • 芸術の都パリ。芸術作品があふれているのは、なにも美術館の中だけではありません。街を歩いていれば、気づかないような場所にも、ストリートアートという芸術作品がひっそりと私たちの注視を待っています。

     

    そんな芸術作品に焦点を当てた、ガイディングツアー(英語、あるいはフランス語)を行っているのが、ART AND TOWNです。主任ガイドは、ヴィクトールさん。ソルボンヌ大学で美術史を修めたあと、フランスの美術史専門家を養成するルーブル学校で勉強した秀才。学生生活のあと、ストリートアートのアーティストと仕事をするようになり、彼らの仕事を紹介するためにガイドをするようになったそうです。

    今回、紹介してもらったのはパリの13区に位置する「ビュット・オー・カーイユ」。最寄駅は、PLACE D’ITALIE。この界隈は、19世紀のオスマン男爵によるパリ大改造計画の際に、再開発がされなかったために19世紀以前に建てられた古い建築が残っています。BUTTEというは、小高い丘、の意味ですが、その土地の起伏が理由で、他の地域のように画一的な建築が困難だったのです。

    古い建物の残るパリのはずれ、ということで、当時の家賃は安いまま。そこで、ボヘミアンな芸術家たちが住み着きました。その名残で、今でもアーティストが住み、新しい芸術に寛容な界隈になっているのだそうです。

    ヴィクトールさんと街を歩いていると、次から次へと出てくる、出てくる!いままで、見えていたのだけど、気が付かなったものがこんなにあるなんて!

    たとえば、この歩道にある背の低いポールの頭は、目玉のように塗られています。作者は、サイクロップ(Cyclope)。ホメーロスの『オデッセウス』にでてくる一つ目巨人の名前です。パリじゅうに、一つ目の作品を作っているのだそうです。

    こちらは、ジェフ・アエロソル(JEF AEROSOL)。

     

    ストリートアートでの定番、ステンシルという型紙の上からスプレーで着色をし、作品を作っています。ステンシルを使う場合は、1色につき、1つの型紙が必要なので、単色の作品が中心。

    この詩情あふれる作品は、セット(Seth)。

     

    パリ生まれのアーティストで、パリの壁に子供をテーマにした作品を残しています。宮崎アニメの影響を受けているらしく、「大人が失ってしまった、子供がもつ純粋で希望の満ちたまなざし」を表現していると彼自身のブログで語っています。

    少しメランコリックな作品が特徴。壁の向こう側の夢の世界に入っていく少年。

    こちらは、ララ・サイド・コーという、女性アーティスト。

     

    風船ガムのようなバブルのモチーフや、日本文化を取り入れたポップな絵が特徴。ここにあるのも、招き猫がテーマになっていますね。

    アーバン・ソリッド(UrbanSolide)は、彫刻のストリートアートを作っています。

     

    ここには、巨大な耳が壁に。まさに、「壁に耳あり」。

    そのほか、ここでは、人間の等身大の彫刻が壁にぴったりとくっついています。

    場所は少し離れますが、巨大な壁画もあります。こちらは、集合住宅の壁面に描かれた大絵画。作者は、ヤナ・ウント・ヤーエス(JANA UND JS)というドイツ系のカップルのアーティスト。

     

    特殊なステンシルを使い、多色の作品を作っているのが特徴。

    ストリートアートの源流は、アメリカのニューヨーク。HIP HOP文化の中に、ラップ、ダンスと並び、スプレーによるストリートアートが含まれていました。初めは、グループ名、ニックネームを壁などにスプレーでサインする、つまりTAGすることが中心でした。NYの地下鉄すべてがこれらTAGによって塗られていきます。しかし、NY市がこれを条例で禁止したために、いったんは衰退しますが、逆に、「表現の自由」の名のもとにNY以外の大都市にも広がっていきます。そのうち、スーパーヒーローでおなじみの、アメリカン・コミック文化が入り始め、TAG+人物画となり、今日ストリートアートといわれるグラフィティーが誕生するのです。

    しかし、公共、私的な建築物に勝手に彩色するこのストリートアートは、もちろん違法。アーティストの中には、承諾を取る者もいたそうですが、罰を受けるアーティストも少なくありませんでした。

    このアートがフランスに入り始めたのは、1960年代。フランスの場合は、原子力反対のスローガンを壁に書くなどの、政治的な意図が強かったことが特徴です。1980年代になると、ストリートアートのもつ「違法性」が少なからずのアーティストをひきつけます。社会を批判するスローガン、彼らの政治に対する不満を表現する作品を作るにあたって、作品の存在自体が社会に対して非合法であることで、アーティストたちは最も適した表現方法を得たと考えたのです。

    このように、非合法な芸術としてのストリートアートが広がっていきます。フランスでは、捕まれば1500から30000ユーロの罰金、あるいは最大2年間の禁固刑がかされますので、決して軽い刑ではありません。

    この非合法ゆえに、ストリートアートは、「エフェメナル(ephemeral)」といわれます。今日、壁に描かれていたとしても、いつ消されるかわからない。消されても、文句が言えない、むしろ消されて当然という芸術作品だからです。

    そして、非合法ゆえに、アーティストは実名を出しません。常に、作者はニックネーム。そして、逮捕される可能性がある作品の作成時間は、限りなく短くする必要があります。そのために発達したのが、ステンシルという型紙です。アトリエで型紙を何枚も用意し、現場でそれをはり、上からスプレーするだけで、瞬時に作品を制作できるようにしているのです。

    これらがストリートアートの歴史と特徴ですが、社会的にもだんだんと認知が広がり、現在では街、界隈が資金をだし、街の美化のためにアーティストに注文する、合法の作品が生まれています。今回紹介した作品のほとんどが、LEZARTというアソシエーションとパリの13区が共同企画したもの。今回紹介した、集合団地の一面に描かれた作品などは、もちろん合法の注文作品です。

    説明されないと気付けない芸術作品。ストリートアート、面白いですね。

     

    (中村)

     

    前回の[みゅう]パリ 美術コラムはこちら


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