若き芸術家、吉澤敬二 絵画展 @パリ みゅうパリ ブログ記事ページ

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    若き芸術家、吉澤敬二 絵画展 @パリ


    2017-01-01

  • 明けまして、おめでとうございます。

    日頃より[みゅう]ブログをご覧いただき、誠にありがとうございます。

    今年も、パリ、あるいは地方のフランスの話題を、現地スタッフの視線からお届けしますので、どうぞ変わらないご贔屓をお願いいたします。

     

    さて、2017年元旦である今日は、私にとって大切な友人である若き画家吉澤ケイジさんと、パリで1月4日から行われる彼の個展を紹介します。 

     

    写真が絵画制作中のケイジさんですが、なんかこの人見たことがあるという方がいらっしゃるかもしれません。そう、かれはパリの本格こってりラーメン「なりたけ」のオープニングメンバーとして、5年間ずっと働いてきた方なのです。

     

    吉澤ケイジさんがパリに来たのは、2011年。日本の大学で絵画を学んだ後、新宿美術研究所で本格的に絵画を学びます。

    新宿美術研究所では、武蔵美術大学の名誉教授でもあった麻生三郎と同校学園長だった山口長男の流れを汲んでいて、「造形美術」という概念が重視されていました。

    造形美術とは、まさに「形を造る」と書くように、対象の基本的な「構造」をつかむことを主眼にした絵画制作スタイルです。

    例えば、リンゴを描くにあたって、どんなにうまく表面的に、赤、黄色、緑をまぜながら、器用に色彩をかさねても、リンゴは丸いのだから、丸い構造をちゃんと描けていなければリンゴを描くことはできない、というのが造形美術の考え方です。

    色彩と形のどちらが大切なのかというのは、美術史の中でしばしば登場する永遠のテーマなのですが、形を重視する考え方が造形美術といえます。

    構造をつかむための訓練は、寝ても覚めても、「デッサン」です。鉛筆、木炭を使って徹底的に、デッサンを叩き込む。まずは、単純な形から入り、石膏像、人体とどんどん複雑な対象にレベルアップして、構造把握の力を養います。ケイジさんは新宿美術研究所で5年間研究生として絵画修行しますが、初めの2年間は、デッサンのみに時間を費やしたとか。西洋絵画の伝統的、古典的な絵画修行は、1にデッサン、2にデッサンという教育方針だったことを考えれば、ケイジさんは、非常に伝統的な西洋絵画教育を受けてきたことになります。

    そこで、彼が痛感したのは、以前はちゃんと対象を見ていなかったということ。デッサン力が付くにしたがって、写真のように対象の細部が見えるようになり、それと同時に、対象の重さ、質感、そして全体構造が見えるようになってきたそうです。

    それ以降、かれの制作スタイルは、まずは、「構造をつかむ」ことが基本になります。静物画であれば対象物の構造、風景画であれば風景の構造をつかむ。それができたら、今度はその構造に自分の感覚、感情、気質、個性を色として乗せていく。絵画論的には、非常にセザンヌに近いですが、それが、吉澤ケイジさんの制作スタイルになりました。

     

    研究生も5年目になりかけた頃、入所当時は20数名いた研究生たちも、どんどん少なくなっていき、人体モデルを描くクラスが廃止。友人、先輩のなどの勧めもあり、ヨーロッパの中の美術館をまわり、本物に触れる機会を得ます。

    その中でも、衝撃を受けたのがやはり、ルーブル美術館でした。パリの伝統的な街並みにも触発された。パリの朝市に行って、そこに並んでいる不揃いのリンゴをみて、「ここに、セザンヌのかいたリンゴがある」と感動したこともありました。

    その体験から、新しい制作場所を求めて、パリにやってきます。

    パリに来た当初は、新鮮な刺激もあり、たくさん絵を描きました。自分の新しい局面を表現したいと思いますが、日本の研究所で体得した絵画制作スタイルをすぐに変えることはできません。

    毎日こつこつと絵画を制作している中で、変わりたいと常におもっていますが、書き終わった後は、やっぱり変わってないと思うことが多かった、といいます。そして、生活のためには、働かなくてはいけない。昼は絵画と向き合い、夜はラーメン屋で働く生活が始まります。それに、語学学校でフランス語も勉強しなくてはいけない…いつの間にか、行き詰っている自分がいたそうです。

    彫刻をフランスの大学で勉強し、一切絵を描かない時期もあったそうです。

    そんなときに出会ったのが、「猫」でした。

    デッサンの個人レッスンしている生徒が、自分の飼い猫を自分の会社のロゴに使いたいので、イラストを描いてほしいというのです。

    自分のスタイル通り猫の「構造をつかむ」ようにして書いたら、依頼主に「全く猫らしくない」と一蹴。対象の構造を重視して、それを追っかけるばかり、猫ががちがちにかたくなっていました。猫独自の柔らかさ、優雅さ、独特の余裕、それらを表現するのが必要でした。人体にはない、柔らかさを持つ猫を描くためには、正確で厳密な構造ではなく、柔軟で、しなやかな構造が必要だったのです。

     

    それまで、「猫を真剣に観察したことがなかった」、と反省し、実際に観察、猫に向き合う日々が始まります。それは、同時に、新宿でうけた教育をリセットする機会になったそうです。

     

    次第に猫のしなやかさ、柔らかさが表現できるようになって、依頼者にみせると、こんどは、「かわいくない」と再び一蹴。

    そう、猫はしなやかな構造をもっているだけでなく、なによりも「かわいい」ものなのです!かわいい猫を表現しようとすることで、絵を描き始めた時の純粋な気持ちに立ち返ることができた、とケイジさんは語ります。

     

    今回の個展のフライヤーにもなっているのが、この猫の絵。新しい領域に入ったきっかけになった重要な絵画です。猫のかわいらしさがにじみ出ている作品ですね。

     

    今回の個展は、ケイジさんのパリの集大成でもあります。まる5年という年月をもって、いったん日本に帰り、仕切り直すという決断をケイジさんはしました。

    「西洋に来て、わかったことは、自分が東洋人であること。仏像、水墨画をはじめてとして、日本の良さがよりわかった」という彼の言葉は、日本を離れたことがある人にはジーンと響くものがあるはず。

    ぜひパリ生活の集大成として、猫だけでなく、「なりたけ」の本格背油ラーメンの、本格油絵を描いてほしいなと個人的には思っています。

    そんな、彼のパリでの軌跡と成長をぜひ個展でご覧ください。

     

    ☆吉澤敬二 個展☆

    場所:Galerie Hayasaki Paris Ⓜ1 St-Paul,Ⓜ7 Sully-Morland
    12-14 rue des Jardins Saint Paul
    日時:2017年1月4日~1月8日
    14h-19h(土日-18h)
    オープニングパーティー1月5日 (木)18:00~21:00

     


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