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    [みゅう]パリ 美術コラム 『女占い師』 カラヴァッジオ


    2014-11-03

  • ルーブル美術館でのデュノン翼の2階の大型絵画のギャラリーといったら、13世紀から15世紀のイタリア絵画が飾られている場所です。たとえば、レオナルド・ダ・ビンチの諸作品は、このギャラリーに飾られています。

    そのギャラリーをまっすぐ進むと、16世紀から17世紀のイタリア絵画の展示になります。そのギャラリーの中でもっとも有名なひとつが、カラヴァッジオの「女占い師」(1595-98)です。

    画面には、二人の人物が見えます。

    左の女性は、白いシャツを着ていて、飾りのついた襟を黒いリボンで留めています。その上から緑と赤のローブを右肩の上だけで結んでいます。白い布地で黒い髪をまとめています。彼女は、男性の手をもっています。

    右側には、若い男性がいます。白と黒の羽で飾られた帽子をかぶり、仕立てのよさそうな、黒で縁取りされた茶色い服を着ています。服のしたからは、白いシャツのひらひらのついた襟が見えます。非常に軽そうな素材です。シルクでしょうか。彼の腰には剣が見えます。手袋をはめた左手は腰に当てられていて、もうひとつの手袋を持っています。

    いったい彼らは何をやっているのでしょうか。絵のタイトルは、女占い師。ヒントになりますね。

    この女性は、占い師のようです。たすきがけをしている服装から、彼女がジプシーであることが分ります。漂泊の民である彼女たちは、道行く人に声をかけて自分の持っている芸を見せる。その報酬としてお金をもらうのです。

    今日、彼女は、非常にいい人を見つけたようです。この若い男性は、服装から非常に金持ちだということが分ります。帯剣して、手袋をはめているということは、貴族のようです。

    「ねえねえ、そこの若い人、あなたの未来を見てあげましょうか。ちょっと手相をみせてくださらない?」

    彼女は、貴族の若い男性の未来を、手相をよむことで言い当てよう、とそう彼にいって近づいたのでしょう。

    「それでは、ひとつ、お願いしましょうか」と若い男は応じたようです。

    おや、けど、おかしくないですか。この女占い師、手相なんて全く見ていませんよ。彼女が見ているのは、若い男性の顔。それも、魅惑的な微笑みを浮かべて。

     

    男のほうは、その熱い視線を受けながら、まんざらでもないという表情を浮かべています。「この女どうやら、俺に気があるな。俺ほど、金持ちで、いい身なりをすれば、ジプシー女がほれるのも当然」とでもおもっているのでしょうか。油断しましたね。この若い男性、やられましたよ。

    彼女の右手に注目してください。薬指と親指を使って、彼の薬指から指輪を盗もうとしています。もう半分以上抜き取られています。そのことにもこの男性全く気づいていませんね。彼女のほうが一枚上手だったようです。彼を魅惑的な視線でじっと見つけていたのは、彼の注意を外に向けるためだったようです。

    親の財産に頼りっきりの世間知らずの若者は、富を誇示したばっかりに、自らジプシーのカモになってしまったのです。このような、日常風景の一部分を絵にした絵画を風俗画といいますが、この風俗画から、道徳的な意味を読み取ることができます。

    世間知らずになることなかれ。

    占い、予言、魅惑的な誘いにはのってはいけない。

    自分の財産を誇示することの危険性。

    などなど。

    つまり、教会の価値に反することをやってはいけないですよ。身を滅ぼしますよ、とこの風俗画は語っているのです。

    これを描いたカラヴァッジオは、イタリア・バロックを代表する大巨匠ですが、かなりやんちゃな人だったといわれています。すぐにかっとなる性格で、賭けテニスをやって、いかさまをした、しないで刃物沙汰になり、人を殺しています。投獄されたことも何度もあり、それでも天才的な絵を描くので、時の権力者から保釈金が払われて娑婆にもどることができたという、壮絶な画家人生を送りました。彼が、ローマ、ナポリ、マルタ、シシリアと活躍の場所を次々と変えたのは、警察から逃れるためでした。

    そんな彼の視線は、盗人のジプシー女のほうに、優しく注がれているような気がします。

    ここまで世間知らずのボンボンなんぞ、ジプシー女にカモられて当然、とでもいっているようです。

    「女占い師」 カラヴァッジオ は、デュノン翼の2階の大型絵画のギャラリーにあります。

    やっぱり解説があると、美術鑑賞はもっと面白くなりますね。ルーブルツアーをぜひどうぞ。

    (渦)

     

    パリ発
    はじめてのルーブル美術館観光

     

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