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    [みゅう]パリ 美術コラム 『籐椅子の静物画』パブロ・ピカソ


    2016-05-30

  • ピカソが31歳の時に描いた静物画です。総合的キュビズムの時代の作品ですが、絵画史の中でも非常に重要な作品です。

    では、早速作品を見てみましょう。

    小さな楕円形の周りは、綱によって囲まれています。キュビズムの手法が使われて、一見ぐちゃぐちゃな印象なのですが、よく見るとそれぞれの対象が見えてきます。

    真ん中にあるのが、ワイングラスです。琥珀色のワインが入っているように見えます。横からと上からの視点が重なりあって描かれています。

     

    JOUという文字が見えます。JOUという文字で想像できるのは、JOURNAL,英語でいうとNEWSPAPERです。つまり新聞という文字の一部が描かれているのです。「読売新聞」の「読売新」の部分が描かれているようなものでしょう。そう考えると、後ろにある重なり合ったような四角が、乱雑にたたまれた新聞であることがわかります。

     

    新聞の上には、パイプが見えます。吸い口であるパイプの部分が手前に見えます。

     

    画面、右側には、輪切りになったレモンが見えます。その下には、ホタテ貝が描かれていますね。おそらく、レモンをぎゅっと絞ってホタテの上にかけたのでしょう。

     

    情景が見えてきたと思いませんか。場所は、おそらくパリのカフェでしょう。白ワインと海産物のプレートを頼んだ。目の前に置かれた新聞の一部に目をやりながら、パイプをくゆらせる。。。

    では、この木のつるで編んだ模様はなんでしょう。この模様はどこかで見たことがあるじゃないですか。椅子の座る部分、あるいは背もたれに使われている、つるで編んだネットの部分ですよね。

    つまりこれは籐椅子の一部だということです。これは、絵の具で描かれたものではなく、籐椅子のネットの部分が印刷された生地がそのまま絵画の中に張ってあります。いわゆるコラージュという手法です。その上に、黒と茶で線が引かれていますが、これは、椅子の背もたれを示しているのでしょう。

    だとすると、この絵画がなぜ楕円形をしているのかも、想像がつきます。そう、おそらく机が楕円だったのでしょう。つまり、真上から見ている机そのものが、絵画の形で表現されていて、そのうえにはさまざまな視点から描かれた事物がキュビズム的な手法で表現されているということです。ではこのロープ、綱は何なのかというと、当時のピカソアトリエには、楕円形の机があり、その机のまわりには、これと同じロープでによって装飾されていたようです。

    いったいなぜこの作品が重要なのかというと、美術史上初めて、絵の具以外のものが絵画の中に入り込んだ作品だからです。絵画とは、表現される対象の似姿を絵の具で表現するものでした。しかし、ここでピカソは、表現される対象の一部をそのまま切り取り、絵画のなかに接着させてしまったのです。このように、キャンパスに別の対象を接着させて作品を作ることを、コラージュといいます。フランス語で単に「接着」という意味なのですが、このコラージュという技法は、別の対象をくっつけることで、絵画というよりも、いわば工作に近く、2次元芸術である絵画は、かぎりなく3次元芸術である彫刻に近くなります。

    新しさはそれだけではありません。JOUという文字で、新聞を示しているということも、絵画という芸術のジャンルを超えようとしています。つまり、文字によって人に想像させるというのは、もともとは詩、あるいは文学の領域の表現です。例えば、「青い空、透き通るようなエメラルドグリーンの海、白い砂浜」というと、そのイメージが頭に浮かびます。文字表現によって私たちは想像するわけですが、それが文学的な表現技法です。

    このようにして、ピカソは、絵画、文学、彫刻というジャンルを超えようとしています。

    この試みを、非常に伝統的な「静物画」というジャンルの中でやっているのが、この作品の面白いところですね。

    解説があると、美術鑑賞はもっと面白いですね。

    (中村)

    題名 籐椅子の静物画 (作者31歳の時)

    年号/素材 1912 油彩、コラージュ

    作者/パブロ・ピカソ(1881 – 1973)

    パリ ピカソ美術館に展示

    他の美術コラムはこちら:

    [みゅう]パリ 美術コラム 『草上の昼食』エドワール・マネ

    [みゅう]パリ 美術コラム 『印象 日の出』クロード・モネ

     


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