[みゅう]パリ 美術コラム 『印象 日の出』クロード・モネ みゅうパリ ブログ記事ページ

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    [みゅう]パリ 美術コラム 『印象 日の出』クロード・モネ


    2016-04-04

  • 印象派の名前の由来でもある、クロード・モネが32歳の時に描いた『印象 日の出』です。

     

    早速、絵を見てみましょう。

    どうやら、港のようです。前景に船が2艘見えます。画面中央には、オレンジ色で丸い太陽が描かれています。後景には、港にあるクレーン、停泊している船、工場の煙突とけむりがうっすらと見えます。

     

    すべては、おおざっぱにしか描かれていません。いかなるディティールは表現されていません。一番手前に見える船でさえ、黒い影でしか表現されていませんし、後景に至ってはその輪郭を認めるのがやっとなほど、ぼんやりとしか表現されていません。

     

    いったいここまで「雑」に描かれた絵画が、なぜ有名なのでしょうか。

     

    大きなタッチによって描かれたこの風景は、モネが幼少期を過ごしたル・アーブルの旧港の夜と日の出の間の瞬間が表現されています。

    モネの見た、ここに描かれた光景とはどういったものだったのでしょうか。想像してみようではないですか。

    まだ太陽はでていません。夜の濃い霧はまだ港をしっとりと包んでいます。すべては「闇」と「もや」の中にあります。そこに、今太陽が昇り始めました。あたりはぼんやりと明るくなり始め、太陽の周りで霧はゆっくりと薄くなりつつあります。

    画家は、港に面したホテルの窓から、この霧と光のスペクタクルを見たのでしょう。ベッドから飛び起き、筆をとり、この一瞬をとらえようとします。

    何事も見逃さないために、素早い、大きな筆さばきによって港の形、船、と光の具合をざっくりと描いていきます。太陽の上は、オレンジ色が横にひかれた長い一筆によって空が明るくなっている様子を表現します。

     

    急がなければいけません。この朝霧と日の出の光景はそう長くは続きません。太陽が昇るのも、霧が晴れるのも、一瞬の出来事です。下書きは一切せず、急いで、非常に素早い筆さばきで、この絵を描いていきます。

    この絵に多くの色が使われていないのもそのためだったのでしょう。前景にある、2艘の船の黒以外、たった2色しか使われていません。霧、影を表現している青みがかったグレーと、太陽光を表現するオレンジ色です。しかし、そのたった2色でモネは無限のニュアンスを表現しています。

    ル・アーブルの港で夜霧と曙光の戯れを前にした時のモネの受けた印象。それがこの絵のテーマです。

     

    モネはこの絵画を1874年の展覧会に出品しました。

    開催者側は、絵にタイトルをつけるようにモネに頼みます。「ル・アーブルの港」とでもつければよかったのですが、この絵のテーマはその港の表現にあるわけではありません。むしろ、その港とわかるような詳細は、一切省かれています。ここで表現されているのは、彼の目に飛び込んできた視覚的感覚、印象でした。そこで、「『印象』とつけてください」とモネは答えたのでした。

    開催者側は、『印象』だと短すぎるので、『印象、日の出』と「日の出」という表現を付け加えたそうです。

     

    実際にこの絵が公開されると、鑑賞者たちは面食らいました。光を色の斑点で表現する方法、それぞれの事物は輪郭さえもしっかりと描かれておらず、筆あとが見事に残った絵肌は、きちんと仕上げがなされていない習作にしか見えなかったのです。当時の絵画とは、デッサンが基本、絵肌に筆の後を残さないように極限まで仕上げる、というのが常識ですから、鑑賞者たちの狼狽はわかります。

    幾人かは、「駄作」、「殴り書き」と評し、ルイ・ルロワという美術批評家は、このタイトルをもじり、この絵は、熟慮と技術を欠いたたんなる「印象でしかない!」と揶揄をしました。その揶揄の印象という言葉から、モネを代表する一連の画家たちは、「印象派」と呼ばれるようになります。

    この絵画は、印象派という名前の由来となっただけでなく、それ以降、画家は対象を忠実に再現することを目指すのではなく、画家が現実をどのように受け取ったか、を表現するようになったという意味で、近代絵画の始まりを示すともいわれています。

    題名『印象、日の出』  

    (作者32歳の時)

    年号/素材 1872 キャンパスに油彩

    作者/Claude Monet(1840-1926)

    マルモッタン美術館

    (渦)

     

     


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